筋萎縮側索硬化症(ALS) 治療情報

ラジカットについて

吉野内科・神経内科医院 吉野 英 2015年にラジカットがALS治療薬として承認されました。私が2001年8月に国府台病院で第1例投与してから14年目です。
 
 ラジカットが脳梗塞急性期治療剤として承認されたのが、2001年4月です。ALSに酸化ストレス、なかでもフリーラジカルが関わっているという報告は今も当時もたくさんありました。そこに出てきたのがラジカットでした。国府台病院で多くの患者さんを前にし、来る日も来る日も治療候補剤を考えていた当時、これを試さない手はないと確信しました。病院の倫理委員会の承認を受け、当時持っていた研究費をすべてつぎ込んで購入できるだけラジカットを購入し、実薬投与するオープン試験を開始しました。すると、これを点滴したら楽になるという患者さんが多くみられ、中にはいったん呼吸困難で気管切開して装着した人工呼吸器を、その後2年間も離脱できるという患者さんもいました。しかし薬効評価のためには、少数の経験では誰も納得してくれませんでした。その後オープン試験を積み重ねいろいろな進行状態の患者さんが集まると、まだ症状が進行していない患者さん、具体的には日常生活に人の手助けを要しない患者さんたちは、その後の進行がかなり抑えられるケースが多いことが判りました。
 
  そこで製薬会社が第1回目の大規模な二重盲検試験を全国の神経内科医の先生方のご協力を得て行いました。その結果、ラジカット群で病気の進行を抑制している傾向はみられましたが、承認に必要な有意差は得られませんでした。なぜ予想された効果を下回ったか、私を含め製薬会社の開発チームで検討を重ねました。その結果、日常生活の自立度合をもう少し厳密に定義し、呼吸症状に問題なく、発病2年以内で確実にALSと診断できる患者さんにエントリー基準を絞りました。このようなエントリー基準で解析したら、第1回目の二重盲検試験でも、その後の延長二重盲検試験でも、コンスタントに有意差が証明できていました。 万を持して行われた第2回目の大規模二重盲検試験は、見事に実薬群が、ALS症状の進行を約3分の2に抑えることができることが証明されました。二重盲検実施期間は半年でしたので、おおまかにいえば、プラセボが1年で歩行不能や食事接種自力で不可能になるところを、1年半に伸ばすことができるという結果でした。その後はオープン投与のデータしかありませんが、実薬投与群はその後も1年間にわたりALS進行状況はたいへん緩やかで、急に悪化するという症例はみられていません。またALSFRS-Rという病気の進展を計測するスタンダードな方法のみならず、Norrisスケールの球症状、四肢症状でも優位な効果を認めましたし、精神的な主観的尺度を表すALSAQ-40という評価もラジカット群で有意な差を認めました。このことは、ラジカット投与により、患者さんがより病気に前向きになれるという可能性を示しています。
 
  さて、リルテックとの関係ですが、リルテックは死亡までの期間を約3か月延長する効果が海外での治験で示されていますが、筋力、肺活量などはプラセボとかわりありません。このことが多くの専門医の先生、患者さんも効果を実感しにくい点と思います。しかしリルゾールはグルタミン酸拮抗による細胞死の保護、かたやラジカットはフリーラジカル消去と、役割は異なっており、お互いに効果を打ち消すことはまずなく、ラジカットの治験でも現実に大部分の患者さんは両剤併用しており、そのことによる副作用はみられませんでした。ラジカット治療を始めても、リルテックを服用し問題ない方は続けていただいて大丈夫です。
 
  シャルコーが140年以上前にALSという病気を見つけて以来、ラジカットははじめて日常生活の機能障害悪化を抑制することが証明された薬剤です。なにより世界中でALSに苦しむ患者さん達に日本の製薬会社が開発した薬が効果あることを証明できたことは、一人の日本人として大きな誇りです。
 
2023年からラジカットは経口剤も使えるようになり、点滴の必要がなくなりました。リルゾール、ラジカット以外にも、メチコバールの大量筋注療法、及びSOD-1遺伝子変異のあるALS患者さんへのトフェルセン療法などが承認申請出されています。またiPS細胞技術で、抗パーキンソン剤のロピニロール、白血病治療薬のボステニブが第二相試験有効性が期待され、現在治験が進行中です。不治病であったALSは今後治療可能な病気となるでしょう。

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